【緊急連載 災害医療のあり方を問う A】
関係機関の連携をスムーズにする情報管理システムの確立

1995年5月
バイオフォーラス災害医学研究所・下田クリニツク院長 笹木秀幹

 

特定の地域に大量の被災者が瞬時に発生する大規模災害時に求められる救急医療活動は、大きく分けて以下の5つに分類される。
  (1) 捜索救助活動
  (2) トリアージ(病状に合わせた治療/搬送の順位付け)
  (3) 応急処置(心肺蘇生、止血、創部固定など)
  (4) 搬送(適切な医療機関への搬送)
  (5) 最終治療(医療機関での最終的医療)
時間が制約されたなかでできる限り多くの被災者を救命するには、災害現場における捜索救助活動から、最終治療が行われる後方医療機関までの“的確な連携”が必要となる。この医療連携を保証するのが“情報管理”である。

災害医瞭における“情報”とは?

災害医療に必要な情報は、以下3点に分類される。
第1は、被災地全体の患者の数と分布、そして個々の患者の緊急度を含めた病状である。これによって全医療二ーズが把握できる。
第2は、医療二ーズに応えるべき救急隊員、医師、看護婦などの人的要因や、医薬品、医療機器、あるいは救急車などの患者搬送手段、重症者を収容できる後方支援病院の空きベッド数など、当該地域で利用可能な医療資源にかかわる情報である。また、近隣地域からの応援が期待できる医療資源の総合評価も重要である。
第3は、災害現場および周辺の状況評価に関する情報である。災害医療活動において現場の安全性の確認は大前提であり、また災害現場までのアクセスに関する情報も、医療資源の迅速かつ適切な配置配分には欠かせない。

適切な医療活動を保証する統合型情報管理

前述の医療二ーズを把握するための情報、医療資源を把握するための情報、医療活動を実施するための災害現場の情報の三つを総合的に管理することで、迅速かつ適切な医療活動が保証される。利用可能な医療資源の“適切な配置配分”を工夫することで、全医療二ーズに応えようとすることが、災害医療の本質である。
たとえば、アメリカ合衆国における緊急オペレーションセンター(EOC:Emergency Operation Center)は、これらの情報を統合する機関であり、同時に、情報の統合から最善の医療活動を決断する意思決定機関でもある。

継続的な情報収集の必要性

被災者の数と分布、患者の病状は時々刻々と変化するため、医療二ーズの評価は経時的に行わなければならない。同様に、利用可能な医療資源も医療活動が進むなかで、その過不足が常に変化する。
災害現場の状況もまた、時問がたつにつれて大きく変化するため、災害医療に必要なこれらの情報は、繰り返し収集されなければならない。
災害対策における情報の収集は“モニタリング”ともいうべき形態を取るものであり、このモニタリングから現状把握と将来予測を行い、その時点での時宜を得た意思決定が行われる。
災害規模が大きくなればなるほど、被災者と消防署・医療機関などの直接の連絡は不可能になる。一定区域の自主防災組織の代表者が、当該地域の被災状況を伝えるために消防無線にアクセスできれば、電話回線などのパンクから免れる。一方また、各医療機関の資源の備蓄の詳細も消防署の緊急情報センターに同時に報告されていれば、災害医療計画も合理化される。
消防署の救急情報センターに警察や地元医療機関、行政機関などの情報が統合されれば、アメリカ合衆国のEOCのような意思決定機能を持たせることが可能になる。

情報管理と人材育成

情報管理によって分析される“医療二ーズの把握”と“医療資源の配置配分”は、一人の患者に対する“診断”と“治療”の関係にあたる。誤った情報管理は、医療二ーズの認識をミスリードし、適切な医療資源の配分を行えなくする。しかも、提供可能な医療資源は有限であるため、医療ニーズと備蓄資源のギャップが大きいほど、公平な資源配分の決定は難しくなる。時宜を得た情報管理は、災害医療活動の本質である。当然ながら、こうした情報管理に基づいて適切な資源配分を行う人材もまた、社会的に受容されていなければならない。
災害医療における情報管理のシステムと同様に、これに従事する人材の育成も、資源備蓄の一環として極めて重要である。

情報の統合と意思決定

警察、消防、医療機関だけでなく、指定地方行政機関や指定公共機関など災害対策活動すべてにかかわる機関の代表が、医療活動の意思決定機関となるべき情報管理センターに参加し、情報の統合と意思決定が同一の場所で行われることが理想である。
欧米における統合型災害対策司令システムと多機関災害対策調整システムは、これら災害対策にかかわる複数の機関の情報管理の統合と意思決定の共同作業を実行するものである。我が国においても、関係機関の連携を円滑にする情報管理システムの構築が急務である。
次回は、この“情報管理”から導かれる“資源管理”について言及したい。

 

[1995年5月号 ばんぶう 掲載]

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