用語集

 

災害(定義)(救急医療の立場からみた災害とは)

物理的化学的エネルギーによって、大量の生命と財産の破壊をもたらすもので、救急救命・復旧作業を行う上で、当該地域の備蓄をはるかに越える資源を必要とするもの

 

災害対策

地元(当該地域)のニーズに応えること(FEMA長官ジェームズ・ウイット)

 

備蓄資源

緊急時に動員できる人的資源と、捜索救助活動や救急救命処置、患者搬送などに必要な、各種器財、医薬品、輸送手段などの物的資源

 

必要資源

被災者の救済と、被災地域の復旧復興に求められる人的・物的資源

 

情報管理

 

災害対策に求められる情報

- 災害の種類(地震・台風・洪水・津波…)
- 被災地の位置と範囲
- 被災地の天候・地理・地形
- 被災地の危険性(安全性)
- 危険物・有害汚染物の有無
- 被災状況
  人的被害(被災者の数・病状・分布)
  物的被害(ライフライン・建造物など)
- 人的資源・物的資源のニーズ
  捜索救助・トリアージ・応急処置・患者搬送などに必要な資源情報
- 被災地に備蓄された人的・物的資源

“情報管理”とは、これらの情報伝達が、災害現場の作業部隊、コマンドポスト、災害対策本部などの間で時々刻々と行われており(モニター)、これらの統合された情報管理から、迅速かつ適切な意思決定が行われる。 

 

資源管理

被災地のニーズに応じた人的物的資源を確保し、各被災地に適正に配分することである。
被災地のニーズには、その質的・量的な要因から、優先順位が自ずと生じるため、高度な意思決定基準が求められる。
“資源管理”とは、被災地ニーズに応じた物流(ロジステイクス)そのもの。

 

統合型災害対策指令システム(Incident Command System :ICS)

朝鮮戦争やベトナム戦争などの戦場における救急医療の教訓と、地震・森林火災・ハリケーン・竜巻・洪水などの自然災害やビル破壊や列車事故などの人的災害などの教訓から、米国の国家研究によって、1970年代に案出された、災害対策の有機的なシステムである。
各州・各組織によって多少の差異はあるが、概ね、現場設営班・トリアージ班・応急処置班・患者搬送班・資源補給班などの作業部隊が、現場指揮官(Incident Commander)によって、情報伝達と資源配分が扇形に統合されるシステムである。(参照図)

 

現場指揮官(Incident Commander)

ICSにおける現場活動の情報管理と資源管理の中心をなし、意思決定の責任者。

 

現場設営班(Staging Sector)

ICS作業班の一つ。救急車の出入り口や、トリアージ、応急処置などの作業領域を確保する。
災害対策活動を安全且つ円滑に行うべき作業現場を維持する。

 

捜索救助班(Search & Rescue Sector)

ICS作業班の一つ。行方不明者を捜索したり、自ら脱出できない被災者を救出する。

 

トリアージ班(Triage Sector)

ICS作業班の一つ。(捜索)救出された被災者の、治療と搬送の優先順位を決定する。

 

患者治療班(Treatment Sector)

ICS作業班の一つ。トリアージされた患者を応急処置領域に集め、病状に応じた応急処置を行う。
搬送可能になるまで病状の安定を計る。

 

患者搬送班(Transportation Sector)

ICS作業班の一つ。患者の病状によって、搬送手段、搬送順位、搬送先医療機関を決定する。

 

資源補給班(Supply Sector)

ICS作業班の一つ。被災者救済活動に必要な人的物的資源を確保し、各作業班に配分する。

 

デイスパッチ(Dispatch)

救急医療に必要な人的物的資源を急派させるセンター。

 

サイズアップ(Size-Up)

災害現場に、最初に到達したものが行う災害現場の状況評価。
被災者の数などを評価し、動員されるべき人員の数や、必要資器材の概略を把握する。

 

現場対策本部(Command Post)

ICSにおいて、現場指揮官が、陣取る現場対策本部。
災害現場が見渡すことができ、かつ無線通信などの情報伝達が可能な場所である。
救急車などで代用されることが多い。

 

危険区域(Hard Zone)

捜索・救助活動を行う領域であり、現場設営班によって、立ち入り禁止区域となる。

 

初期治療(Primary Treatment)

救命に必要な応急処置。止血操作・呼吸管理・循環管理の3つを指す。

 

基礎的救命処置(Basic Life Support)

救命処置のうち、高度な知識と技術を要しないもの。
気道確保・人工呼吸・心臓マッサージなどを指す。

 

高度救命処置(Advanced Life Support)

救急処置のうち、高度な知識と技術を要するもの。
気管内挿管・直流除細動・薬物治療などを指す。

 

START : Simple Triage And Rapid Treatment

カリフォルニア州ニューポートビーチで1980年代に発達したもので、大量被災者のトリアージと応急処置を、徹底的に簡素化・迅速化したもの。
トリアージは、自力歩行・呼吸状態・循環状態・意識状態の4つのステップで患者の緊急度が判別される。

 

DEAD/NONSALVAGEABLE

STARTにおいて判別される患者緊急度の一つ。
死者或いは救命不能な患者を意味し、緊急度はゼロ。黒色で分類される。

 

CRITICAL/IMMEDIATE

STARTにおいて判別される患者緊急度の一つ。
呼吸・循環・意識の何れかに重篤な問題をもつ患者であり、赤色で分類される。
緊急度は最も高く、治療も搬送も、最も優先される。

 

DELAYED

STARTにおいて判別される患者緊急度の一つ。
自力歩行ができなくて、搬送の必要性はあるが、呼吸・循環・意識は安定しているため、緊急性はない。黄色で分類される。

 

WALKING WOUND(負傷しているが一人で歩ける人)

STARTにおいて判別される患者緊急度の一つ。
自力歩行できて、呼吸・循環・意識には問題ないため、救急搬送の必要もない。
STARTでは緑色で分類される。

 

ヘッドレスチキン症候群

災害対策活動において、災害現場の情報が正確に上位中枢に伝達されなかったり、上位中枢からの指令のないまま現場が勝手に行動したりすることによって、災害対策活動の効果効率が著しく低下した状態をいう。
統合型災害対策指令システムは、この病状を克服するために生体の、神経血管系を模した災害対策のシステム化されたもので、1970年代に米国で案出され、その後あらゆる災害に応用できるよう発展したもの。

 

ペーパープラン症候群

災害対策の事前計画が、実際の現場で稼働しない状態をいう。計画作成者のメンバーの、知識や認識などの不備が、計画を現実的なものでなくしている。
人が災害時にどうすべきかという理想論よりも、どう行動してしまうかの現実論が計画立案に重要。

 

ロビンソンクルーソー症候群

災害地域の需要分析が正確でないことや、備蓄資源の把握ができていないことから、自らの能力を過信して、周辺からの応援を断ってしまう状態をいう。
災害現場における情報管理と資源管理の不備がもたらす病状。